2020は「ボクの水辺 私の水辺」だ!

昔から水辺はホットスポット

川は古来より、私たちの暮らしに多くの叡智をもたらし文明を育んできました。川が切り開いた肥沃な土地に人が住み、生活の営みからまちがつくられてきました。川は山から様々な栄養を運び、多様な生物に活力を与え、山と海をつなぐ血管のような役割として、休むことなく大地を健康にしてくれました。時おり、暮らしや命を一瞬に飲み込む暴れる川の恐れも体験し、自然の恵みだけではないことも先人から継がれてきました。
川は生活の水だけではなく、灌漑、漁、水運、防火、資源などにも利用されてきました。さらに、遊び、憩いそして風景としての場でもありました。歌川広重による浮世絵木版画「東海道五十三次」には、日本橋から三条大橋まで実に38箇所の絵に水辺が描かれています。旅をしながら水辺を眺め、人が集い憩う場所にも水辺が欠かせないのが人間の本性かもしれません。

東海道五十三次|日本橋

東海道五十三次|三条大橋

 

戦後の高度経済成長期の中、川はただ排水として機能させ、治水のためにひたすら直進化されました。風光明媚とはかけ離れてしまった時代の象徴として、日本橋川に架かる首都高速道路があります。日本の道路の始点(元標)である日本橋の現在の姿は、映画「三丁目の夕日」のクライマックスでもある日本橋からの夕日とは程遠いものとなりました。しかし、日本橋川の「屋根」でもある首都高速の一部が地下へもぐる計画があり、2030年以降の完成によって再び日本橋に光が差し込むことでしょう。今、東京が水辺の価値を再認識し、未来へ繋げていこうとし始めた瞬間なのです。

 

歴史深い日野川と昔の川人たち

日野川は、南越前町の夜叉が池に源を発し、越前市、鯖江市と流下し福井市内で足羽川を合流したのちに、福井市高屋町で九頭竜川に合流する全長71.5kmの川です。天平神護2年(766年)、東大寺領道主絵図によると、「味真川」と称されています。また「万葉集」の大伴家持の長歌では叔羅川とも称されており、古くから歴史の記録に日野川は残されています。つまり、人の文化や習俗と日野川は深い関係にあることを示しているのです。事実、大正や昭和初期までは若者が河畔で芸者さんを引き連れて宴会をするなど、遊楽の地でもありました。

大正13年の日野川原の遊楽の様子|ふるさとの思いで写真集明治大正昭和武生,砂糖今朝夫,昭和55年8月20日発行,p. 71

 

全国に先駆けた水辺のリノベーション

現在では、「そうだ!川に行こう!」や「おしゃれなリ・BAR」が日野川流域交流会によって開催され、水辺の利活用が多様に展開してきました。散歩やランニングなどの利用だけであったこれまでの利用形態に加えて、イベントや体験学習を中心とした利用をリードしてきました。特に「おしゃれなリ・BAR」は、河川法準則の改定やミズベリングなどの動きも相まって、その後全国から注目されるようになりました。現在では大型テントやBBQエリアなど、行政と市民が利用促進に向けて官民一体となった水辺のリノベーションを進めたことで、全国でもまさに「特区」のような水辺のエリアに成長しています。

そうだ!川に行こう!(毎年7月末に日野川流域交流会が開催)

 

おしゃれなリ・BAR|(毎年8月末に日野川流域交流会が開催、2019年夏に目標達成し閉店)

 

一方で、このようなイベントを開催しているとギャップを感じることも多くあります。年に一度のイベントは打ち上げ花火のように瞬間的にパフォーマンスは上がりますが、狙うべき効果としての日常利用へはなかなか定着していきません。日野川流域交流会と一般社団法人環境文化研究所は、2018年より4月~11月の特定期間を「リバーパラダイス」と称して、テーブルセットなどを設置し、日常利用を促してきました。その結果、ある程度の利用は認められますが、想像した以上の利用へは繋がってはいません。まちと水辺の間には、構造、意匠、行政、管理者そしてまちづくりなどに見えない境界があって、お互い踏み入れにくいのかもしれません。しかし私たちは、家の中や仕事場の日常をさらに水辺に誘導したいと考えています。つまり、多様な利用を推進し、ボーダーレスの新しい水辺空間へと創出していくのです。

大型テントやBBQエリアができたことで、定常化を目指しているリバーパラダイス

 

次の水辺は「自分の水辺」という思い、シビックプライドへ

家での宿題を水辺で、プロジェクト会議を水辺で、議会を水辺で、3時のママ友カフェを水辺で、家族団欒の夕食を水辺で。水辺には大きな自然による力が作用しています。宿題が捗り、暗い会議が明るくなり、これまでなかったアイデアが出たりします。事実、自然の中での発想力やストレス解消など、多くの恩恵を受けることができるのです。さらに、家や仕事場であれば掃除もするだろうし、カフェであれば通る人も楽しくなり、まちと水辺が一体となる楽しい空間が流れて環境向上にも寄与していくでしょう。私たちは、流域住民が自分の空間として日野川をさらにリノベーションすることで、環境保全やエリアの価値の創出につながると考えます。
今回、私たちが目指すのは、「ボクの水辺、私の水辺」です。全国でも自分事としての取り組みはまだまだ少なく、かつ、「自分たちの水辺を大切に使っていきたい!」という本質的な思い、つまりシビックプライドの醸成へと意味を込めました。
この実現のために、日野川流域交流会と一般社団法人環境文化研究所は、越前パークス(日野川河川公園の指定管理者)や市役所および流域住民と協同し、関心を持つ人々が利用しやすいようにコミュニケーションを深めるとともに、日常利用を進めるうえでの困りごとの解消や、新しいアイデアや活動へ支援していきます。そして、日本でまだ誰もが経験していない新たな水辺の世界へ進んでいきます。

水辺で仲間でランチを楽しんでみたり

 

水場もあって料理を楽しんだり

 

 

「ボクの水辺、私の水辺」に共感して活動する人大募集!

そこで、環境文化研究所では「ボクの水辺、私の水辺」に賛同・共感していただける人を募集しています。具体的には、イベントやサークルを行う「イベントタイプ」と、宿題、お喋り、お仕事など日常を水辺で過ごす「デイリータイプ」です。デイリータイプは特に申し出は必要ありませんが、できれば「こんなことしているよ!」というお知らせやSNSでの発信をいただけると嬉しいです(#リバーパラダイス、#ボクの水辺私の水辺、#日野川)。またイベントに関しては、越前パークスにお問い合わせいただければ、皆さんがぜひやってみたい企画の支援をいたします。春にはテーブルセットなどを配置しますのでどんどん使って、皆さんの水辺にしていきましょう!

 


 

令和2年1月1日

日野川流域交流会
一般社団法人環境文化研究所

(文責 田中謙次)

 

>一般社団法人環境文化研究所のミッションとは

一般社団法人環境文化研究所のミッションとは

環境文化研究所は、自然環境、民俗文化、伝統技術などを後世に繋ぎ、持続可能な社会を実現するため、専門性と豊かな個性を有する研究員が蓄積している多様な経験や知識を活かし、企業・行政および専門家等による連携活動に参画し、地域発展を支援する活動とともに、地域の暮らしや体験を通じて自然の恵みを巧みに活用する技術と知恵を身に着けた人材を育成し、持続可能な社会の実現を目指す価値観の醸成を図ること、および地域の自然資源や人文資源などの地域資源を生かした産業を育成し、雇用を創出することで環境保全および地域振興に寄与することを目的とし、1997年1月1日にスタートしました。2016年7月11日に、一般社団法人として設立し、更なる地域貢献を進めていきます。

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